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最高裁判所第三小法廷 昭和45年(オ)617号 判決

上告人

柿川リツヨ

代理人

栗原賢太郎

被上告人

望月松平

代理人

松尾千秋

主文

原判決を破棄する。

本件を福岡高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人栗原賢太郎の上告理由について。

本件記録によれば、上告人は、訴外七条一彦が実質上の債務者であり、上告人は保証人たる地位以上のものではない旨、そしてこのことは被上告人も十分了知していたものであるから、上告人としては負担部分二分の一の限度でしか求償に応ずる義務はない旨主張していたことが明らかである。ところが、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)は、この主張について、七条一彦が実質上の主債務者ともみられるが、被上告人は連帯保証人であつたのであるから、上告人の分別の利益の主張は理由がない旨判示して、右主張を排斥したうえ、被上告人が弁済して免責を得た債務全額を含む金額につき上告人に求償義務があると判断しているのである(なお、原判決の事実摘示には、上告人が分別の利益を主張したように記載されているが、本件記録上、かかる主張をした形跡は認められない。)。

しかしながら、分別の利益は、数人の共同保証人がある場合に、保証人の債権者に対する関係における問題であつて、保証人と債務者、ないしは相互の内部関係については、なんらかかわりのない問題である。そして、債権者との消費貸借契約の際には、主債務者として契約を締結しているため、債権者に対する関係では、主債務者であることを否定しえないものであつても、内部関係においては、実質上の主債務者でない場合には、実質上の債務者ないし連帯保証人から求償権を行使されても、当然に、これに応ずべき義務を負うものではない(最高裁判所昭和四〇年(オ)第九八六号同四一年一月二八日第二小法廷判決、裁判集民事八二号一九七頁参照)。すなわち、保証人と債務者、ないし保証人相互間の求償権の有無および範囲は、内部の実質的な法律関係に従つて定められるべきものである。

そして、本件においては、債権者である訴外株式会社西日本相互銀行に対する関係についてはともかく、七条一彦、被上告人および上告人の内部関係では、実質上の主債務者が七条一彦であり、上告人が実質上の連帯保証人にすぎないとすれば、連帯保証人である被上告人が、債務の全額を弁済した場合においても、被上告人は、民法四六五条一項の規定により、自己の負担部分(特約がなければ平等の負担部分)をこえる部分についてのみ、同法四四二条の規定の準用によつて上告人に対し求償権を行使しうるにとどまることが明らかである(大審院大正八年(オ)第八八七号同年一一月一三日判決、民録二五輯二〇〇五頁、同昭和六年(オ)第一一一三号同年一二月二三日判決参照。)

それゆえ、被上告人が連帯保証人であつたと認定するのみで、ただちに上告人の前記主張を排斥して被上告人の主張する金員全額につき上告人に求償義務がある旨判示した原判決の判断には、法令の解釈適用を誤つた違法があるものといわなければならず、この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであり、論旨は理由がある。

したがつて、原判決は破棄を免れないが、上告人が実質上は主債務者であるか否か、連帯保証人であるか否か、後者であるとすれば、被上告人との間に負担部分についての特約があるか否か等につき、さらに審理を尽くさせる必要があるので、本件を原審に差し戻すのを相当とする。

よつて民訴法四〇七条一項の規定に従い、裁判官の全員の一致により主文のとおり判決する。(松本正雄 田中二郎 下村三郎 飯村義美 関根小郷)

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